メニュー

イベント報告

【2019.11.15 GIR公開セミナー報告】”New Tricks to Improve Old Antimicrobial Drugs”

2019.11.22

講演者 Dr. Micha Fridman  (School of Chemistry, Tel Aviv University, Israel)

◆日時:2019年11月15日(金)

◆会場:東京農工大学 小金井キャンパス 11 号館 5 階 L1151 教室

◆言語:英語

◆開催担当者:櫻井 香里 準教授 (グローバルイノベーション研究院  ライフサイエンス分野 篠原チーム)

◆参加人数: 40名

開催案内

講演概要

テルアビブ大学理学部化学科よりMicha Fridman先生をお迎えして講演会を開催した。Fridman先生は抗菌剤の合成開発とケミカルバイオロジー研究の分野で第一人者であり、イスラエル化学会Medicinal Chemistry部会の副会長としても活躍されている。今回は、実際の臨床で用いられている薬剤を含めた抗菌剤に関して、細胞内オルガネラ局在特性およびオルガネラ標的戦略についてご講演いただいた。ご講演は3つのトピックスで構成され、はじめに世界で国境を越えた問題となりつつある感染症について、特に近年の薬剤耐性菌の発現の問題について、および公衆衛生上不可欠な抗感染症薬開発における最先端の知見についてご紹介いただき、次に、古くから知られる抗菌剤であるアミノグリコシドを基盤とした新規抗菌剤の開発について、最後にオルガネラ標的機能をもつ蛍光性抗真菌剤の設計開発および機能解明についてお話しいただいた。
Fridman研究室では、新規抗菌剤の設計戦略としてバクテリアやカビの細胞膜構造を物理的に損傷する2つの方法の開発に取り組んでいる。1つ目は細胞膜構成因子である脂質分子と直接相互作用をすることで細胞膜構造を破綻させる化合物の開発であり、2つ目は、細胞膜構成因子であるエルゴステロールの生合成を阻害することで間接的に細胞膜構造を脆弱化する化合物の開発である。
抗菌剤として現在用いられているアミノグリコシドは、バクテリアのリボソームに選択的に結合することでバクテリアのタンパク質生合成を機能阻害することが知られる。アミノグリコシドは多数のカチオン部位もち、これらをリボタンパク質との相互作用に利用している。Fridman先生らは、アミノグリコシドの抗菌活性を保持しつつ、バクテリア選択的に膜破壊特性を付与することで抗菌性の向上をはかった。アミノグリコシドに種々の長さや構造の脂質鎖を導入したカチオン性両親媒性化合物を合成し、スクリーニングを行ったところ、バクテリア選択的な毒性を示す化合物が見いだされた。脂質の構造の差異によってヒト血球細胞よりもバクテリア細胞の細胞膜に対して選択的に膜破壊作用を起こすことが可能であることを明らかにした。
抗真菌剤であるazole化合物は真菌細胞膜中のエルゴステロールの生合成に関わるラノステロール脱メチル化酵素を阻害することが知られるが、Fridman先生らはその作用機構を解析した結果、化合物は酵素が発現する小胞体ではなくミトコンドリアに濃縮されることを見出した。そこで、作用効率を上げるべく、azole化合物に小胞体標的部位を導入することを考案した。小胞体標的部位は構造検索を用いて選出して新規azole化合物を設計合成し、機能解析を行ったところ、小胞体に化合物を局在化することに成功し、また抗真菌活性が向上した。以上より薬剤の特定のオルガネラへの局在を制御することで、活性の向上と薬剤耐性の抑制への展望が示された。

このページの上部へ