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2019.9.26
講演者
Prof. Wout Boerjan (VIB Center for Plant Systems Biology and Gent University, Belgium) – “New strategies for lignin engineering in Arabidopsis and poplar”
Prof. John Ralph (D.O.E. Great Lakes Bioenergy Research Center and University of Wisconsin-Madison, USA) – “Redefining and Redesigning Lignins”
◆日時:2019年9月19日(木)
◆会場:東京農工大学 府中キャンパス 1 号館 11 教室
◆言語:英語
◆開催担当者:梶田真也 教授 (グローバルイノベーション研究院 食料分野 佐藤チーム)
◆参加人数: 36名
◆開催案内
講演概要
今回お招きしたお二人は、リグノセルロースの生合成と生化学の分野で世界的に活躍するリーダーである。今回、Boerjan教授からはNature Plantsに掲載された植物の細胞壁に新しい化学構造を導入する研究と、新しいゲノム編集技術に関するお話を伺うことができた。Boerjan教授らは、ウコンに大量に含まれるクルクミンに着目し、ジケトン構造を持つ子の化合物をリグニンに取り込ませることを考えた。クルクミン合成に関わる2つの酵素遺伝子、DCSとCURS2をモデル植物のシロイヌナズナで発現させたところ、期待通りクルクミンの蓄積が確認された。更に、細胞質で合成されたクルクミンが細胞壁へ輸送されリグニンの一部として取り込まれることで、組換え植物の細胞壁は黄変した。リグニンへのクルクミンの取り込みは、塩基性条件下でのリグニンの分解性を高め、酵素糖化率の向上に寄与することが秋からにされた。
Boerjan教授からは、上記の話題に加えてCas9を染色体に組み込まないゲノム編集技術についても話題提供があった。近年、広く利用されているゲノム編集は、遺伝子組換えを土台にしている場合が大半である。しかし、種子増殖しない栄養繁殖性の植物では、導入した遺伝子を後代で取り除くことが困難なため、法律上は遺伝子組換え植物にならないというゲノム編集植物の最大の利点を活かすことが難しい状況にある。Boerjan教授らは、複製開始点を含まないプラスミド上にCas9遺伝子をクローン化し、これをパーティクルガンでポプラの培養細胞へ導入することで、Cas9フリーの
組換えポプラを作成することに成功した。成功効率が低く、大変地味な実験に基づく成果であるが、ゲノム編集技術を栄養繁殖性の植物で利用する際に、大変重要な技術であると思われる。
Ralph教授からは、これまでの研究を総括するようなお話を伺えた。NMRを用いたリグニンの構造分析を30年以上に亘って続けてきたこと、その成果に基づいてリグニンにエステル結合を導入する方法を考案したこと、更にその具現化のために分子生物を専門とする研究者と有機的なコラボレーションをしたことなどを伺った。今でこそリグニン化学の大家であるが、その背景には長い地道な研究活動があることを改めて知り、研究のある
べき姿を再認識する機会となった。
各講演の最後に来場者から多くの質問が寄せられ、本学の大学院生からも積極的な発言があり、大変有意義なセミナーとなった。
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